REPORT アーストラベル水戸の旅

「職場体験の仕組み」で特許出願。シゴトリップという挑戦

教育旅行

こんにちは。アーストラベル水戸代表の尾崎です。

先日、職場体験プログラム「シゴトリップ」に関する特許出願のプレスリリースを出しました。この出願は、単に新しい仕組みを守るためのものではありません。

「シゴトリップ」は、生徒が自ら体験先を選び、少人数で地域の事業所を訪問する職場体験プログラム。体験の調整や書類作成など、これまで先生方が担ってきた業務を、私たちアーストラベル水戸が一括で支援しています。

“教員の負担軽減”と“生徒の夢中になれる学び”の両立を目指すこの仕組みには、日々教育現場で奮闘する先生方、地域の大人たち、そして未来を模索する子どもたちの思いが詰まっています。

そのすべてを、「仕組み」として未来に残したい。今回の特許出願には、そんな想いと決意が込められています。

ではなぜ、教育旅行を手がけてきた私たちが、“特許”という次の一手を選んだのか。今回は、その背景についてお話ししたいと思います。

旅が止まったとき問い直した“存在意義”

「私たちは、本当に必要とされている会社なのか?」東日本大震災、そしてコロナ——。その2つの出来事を通じて、私は何度もこの問いを繰り返しました。

観光が止まり、旅が“不要不急”と呼ばれたあの頃。旅行会社としての存在意義が、真正面から突きつけられたのです。

特に2020年〜2021年のコロナ禍では、先がまったく見えませんでした。「県をまたぐ移動は控えてください」という要請が出たかと思えば、解除され、またすぐに戻る。

そんな繰り返し。 旅はつくれず、行き先も決められない。「旅=遠くへ行くもの」という前提が、静かに崩れていくのを感じていました。ちょうどその頃、学校の先生たちからも相談が増えてきました。

「延期にしたけど、やっぱり子どもたちのために何かやりたい」
「でも県はまたげない。保護者の目もある。どうすれば…?」


そんな声を聞く中で、私は強く思いました。「先生たちの気持ちに、なんとか応えたい」その思いが、私たちの次の一歩を動かし始めたのです。

近くにあった茨城の知らなかった世界

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「県外には出ず、できるだけ小さなエリアでできることはないか」。そんな声を受けて、私は改めて考えました。

茨城は決して狭くない。見渡せば、面白い場所も、人の魅力も、あふれている。 けれど、そこに目を向ける人は、ほとんどいませんでした。

“近くでも夢中になれる旅があるかもしれない”。

そう考えた私は、まず自分自身で体験してみることにしました。茨城町の観光協会に電話をかけ、こう相談しました。

「何か体験させてもらえませんか?」

紹介していただいたのは、涸沼のしじみ漁師のお父さんや、しじみ汁をふるまってくれたお母さんたちでした。実際に漁の現場を見せてもらいながら話を聞いているうちに、どんどん引き込まれていきました。

「うわ、この人たち、めちゃくちゃ面白いじゃん」
「まじか。こんなに近くにいたのに、全然知らなかった」

そう感じた瞬間のことを、今でもよく覚えています。

地元の人の暮らしや言葉、生き方に触れることで気づいたのは、自分とは違う生き方をしている人との出会いが、価値観を揺さぶってくるということ。それは旅というより、まるで“人生の授業”でした。

「これ、子どもたちにも体験させたい」

そう思ったのは、自然な流れでした。たった一度の出会いでも、世界の見え方は大きく変わる。それが、旅の持つ本当の力。 心の底から、そう実感しました。

旅には、人の心を動かし、地域をつなぐ力があります。観光地を巡るだけでは終わらない、出会いと学びが心に残る旅。私たちは、そんな“心を動かし、地域の未来につながる旅”を届けていきたいと思っています。

アーストラベル水戸は、もはや“旅行を手配するだけ”の会社ではありません。地域の未来を、旅という手段でデザインする会社へ。これからも、そうあり続けたいと思っています。

そして、茨城に生きる子どもたちと、茨城で挑戦する大人たちをつなぐ架け橋になる。それが、私たちの使命です。

教員の負担を減らし、生徒に“選べる体験”を

コロナ禍で、旅のあり方を再構築しようとしていた時期。私たちのもとに、学校現場から切実な声が届きました。

職場体験の準備だけで、先生たちが疲弊してしまっているんです

職場体験は、生徒にとって意義ある学びです。しかしその裏で、先生たちは、受け入れ先の調整、書類作成、当日の運営まで、限られた時間の中ですべてを担っていました。

たとえば、地域の事業所に連絡し、日程や受け入れの可否を確認する作業。
1校で200件近くにのぼることもあります。

1件ずつ電話で空き状況を確認し、日程を調整し、行程を組む。それを授業や他の校務と並行して行うのは、到底“片手間”では済みません。さらに、急なキャンセルや変更が出れば、再調整も必要になります。

こうした現場の声に触れる中で、私たちはひとつの問いにたどり着きました。「生徒が自分の関心に合わせて体験先を選べる仕組みを、旅のかたちで実現できないか?

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「シゴトリップ」は、 生徒が自ら体験先を選び、10〜15名の少人数で地域の事業所を訪問する、“選択制・少人数制”の職場体験プログラム

農業・観光・ものづくり・福祉など、茨城県内100以上の事業所と連携。 体験先の調整、行程の設計、書類の作成はすべて、アーストラベル水戸が一括でサポートします。

その結果、先生方の負担を大幅に軽減できる仕組みが整いました。
そして実際に参加した生徒たちからは、こんな声が届いています。

・仕事と聞くと「楽しくない」「大変そう」といったマイナスのイメージが強かったけれど、実際に事業所に行ってみて、自分の“好き”を仕事にしている人がいることを知りました。仕事の中に、やりがいや誇りを見つけることが大事なんだと感じました。

・働くことは「難しくて大変で、面倒くさいもの」だと思っていましたが、そうではなくて、自分が働くことで多くの人の幸せを作っているんだと気づきました。

・働くことは、言われたことに従って行動するだけだと思っていました。でも今回の職場体験を通して、一人ひとりが責任を持って行動していること、自分で考えてお客さんに楽しんでもらう工夫をしていることを知り、働くことへの印象が大きく変わりました。

なぜ、「特許」を出願したのか

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▲シゴトリップの訪問先としてお世話になっている、茨城県大子町にある藤田観光りんご園さん。

“旅をつくる会社”の価値を、未来につなぐために。選択制・少人数制・探究融合・教員支援。この4つの要素を組み合わせた「シゴトリップ」は、生徒の学びと、教員の働き方改革の両方を支える仕組みです。

茨城県内で少しずつ広がる中、私たちの中に一つの思いが芽生えました。「この仕組みそのものに、教育的な価値があるのではないか?」

その価値を未来へとつないでいくために、私たちは “特許” という方法を選びました。

特許出願に込めた、4つの想い

1|受け入れ先の事業所の皆様への感謝を、形にするために

「教育を共につくるパートナー」として、大切な時間とリソースを提供してくださっている地域の皆様へ。この仕組みを守り、育てていくという意思表示として、出願というかたちを選びました。それは、感謝であり、約束でもあります。

2|裏側で尽力する社員の努力を、正当に評価するために

「シゴトリップ」は、学校・事業所・生徒の三者の想いを丁寧につなぐ、
綿密な調整の積み重ねで成り立っています。その見えにくい努力に、社会的な価値を与えたいと思いました。日々の献身が、正当に評価される仕組みを残したかったのです。

3|独自の構造を守るために

選択制、少人数制、探究的な学びとの融合、教員支援。一つひとつは既存の概念かもしれません。けれど、それらを一貫した構造として成立させているのが「シゴトリップ」です。この本質を守りながら、模倣ではなく“本物”として広げていくために、特許による保護が必要だと考えました。

4|“旅をつくる会社”の価値を、社会に正しく伝えるために

私たちは、教育旅行をつくる会社として、知的財産を持つ企業でありたいと考えています。“ただの旅行会社”ではなく、教育のパートナーとして信頼される存在へ。

その覚悟を、社会に示すための一手が、今回の特許出願でした。

“知らないまま”にしない。旅がつなぐ、子どもたちと茨城の接点

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▲常陸大宮市での林業体験の様子

ある教育関係者の方が、こう話してくれました。「茨城県の高校生の約8割が、大学や短大進学の際に首都圏へ進学している」と。そして多くは、そのまま県外で就職し、茨城には戻ってこないのだと。

でも、私はそれを“流出”とは考えていません。地域の大人に出会う機会がなかっただけ。茨城で働く姿を見る前に、選択肢から外れてしまっていただけなのです。だからこそ、私たちはこう思っています。

「将来の選択肢のひとつに、“茨城”がある」そんな若者を、一人でも多く育てていきたい。たとえ一度は茨城を離れたとしても、「茨城って、なんかいいよね」と思える体験があればいつか戻ってくるかもしれないし、外から応援してくれるかもしれない。

私たちはこれからも、そんな“未来の茨城人”を育てる旅を、丁寧につくっていきます。


おわりに

特許はゴールではなく、「志を形にした証」

教育と地域をつなぎ、未来をひらく旅をつくる。 それが、アーストラベル水戸の使命であり、私たちの誇りです。この挑戦を支えてくださる先生方、地域の皆様、 そして共に歩んでくれる仲間たちへ。心から、ありがとうございます。

特許出願は、私たちにとって大きな一歩ですが、まだ始まりにすぎません。これからも、一つひとつの旅を丁寧に届けていきます。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

アーストラベル水戸株式会社
代表取締役 尾崎 精彦


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