「変化は副産物」── 竹園高校・櫻井校長が語る、学校を動かす”場づくり”の哲学

アーストラベル水戸 校長インタビューシリーズ
アーストラベル水戸の校長インタビューシリーズ。今回は茨城県立竹園高校の櫻井校長にお話を伺いました。筑波大への合格者数が全国トップという進学校でありながら、この1年新しい取り組みが行われた。その裏にある櫻井先生の哲学が、とにかく面白かったのでお伝えします。
(写真:アーストラベル水戸・尾崎と、竹園高校・櫻井校長)
「何に入ったか」じゃなくて「何を学んだか」
竹園高校のホームページを見て、まず驚いたことがあります。進学実績の見せ方が、他の学校と全く違う。
普通なら「東大◯名、筑波大◯名」と並べるところを、櫻井先生は「合格先と、その子が取り組んだ探究のテーマ」をセットで載せることにした。どこに入ったかではなく、竹園で何を学んだからここにつながったのか。この姿勢の違いは100倍違うと思いました。
もちろん進学実績を求める声もある。でも櫻井先生は「結果はちゃんと出しつつ、学校の姿勢として、学びがその先につながっているんだよというのを見せたい」とおっしゃる。両方やる。そのバランス感覚がすごい。
「まず地元を見ようよ」── 東京でも海外でもなく、茨城から始める理由
竹園高校の生徒たちは学力が高く、どうしても東京や海外の大企業に目が向きがちです。櫻井先生はそこに一石を投じました。「大手から入るんじゃなくて、1年生はまず地元から入りたかった」と。
そこで連携したのが、EO茨城(Entrepreneurs’ Organization)という経営者団体です。私もEO茨城のメンバーとして、1年生の探究学習の一環でお話をさせていただきました。
その時の様子はこちらのnoteに書いています ↓
https://note.com/embed/notes/n0f87d98a7179
生徒たちの反応がすごかった。「茨城にこんなに思いを持って働いている大人がいるのか」と本気で驚いたそうです。お金億けじゃなくて、社会を良くするために身の回りで頑張っているかっこいい大人がいる。その発見は、進路支援のどんなパンフレットよりも強烈だったはずです。
ただし、櫻井先生は「生徒にとってのwinだけ」では終わらせない。社長さんたちにも「会社課題を出してもらって、高校生なりに発表させてください」と提案した。来てくれる大人にもwinがある形にしないと持続可能じゃない。この「win-winの事業設計」は、完全に経営者の発想です。
フィリピンで起きた「想定外の連鎖」
グローバル教育でも櫻井先生の発想は独特です。欧米ではなくアジア、特にフィリピンの認定NPO法人「CFFジャパン」と連携したスタディツアーを実現しました。
なぜアジアか。「英語が母国語の国だと、英語に付き合ってもらっている感覚がある。どちらも外国語同士の方が、遠慮なくコミュニケーションできる」。なるほど、と唄りました。
現地では毎晩、その日学んだことを対話する時間があった。「もしあなたの大切な人が殺されたら、殺した人をあなたは許せますか。なぜですか」「平和を築くために今日から何をしますか」。第二次世界大戦で日本がしたことを見てきた後に、こういう問いと向き合う。生徒たちは「幸せに必要なことは愛だ」「私の生き方が変わった」「当たり前がどれだけ幸せか分かった」と書いてくれたそうです。
でも、本当にすごかったのはその後です。帰国した生徒たちが、先生に言われたのではなく、自分から「この経験を他の生徒にシェアしたいから、学年集会で話す時間をもらえませんか」と申し出てきた。
先生が「発表の準備をしてね」と言うのと、生徒が自ら「話させてください」と来るのでは、全く違う。櫾井先生がこの話をされた時の嬉しそうな顔が忘れられません。
卒業式で起きた「良い連鎖」
櫻井先生は卒業式の司会を生徒に任せることを提案しました。すると生徒会長が「他にも何かやっていいですか」と言ってきた。卒業旅行の場で20分もらって、先輩たちへのムービーを作ったり、応援をしたり、カジュアルな形でスピーチをしたり。
そして予定になかったことが起きた。後輩たちがやってくれた姿を見た卒業生が「後輩がやってくれたから、僕も前に出てきました」と、後輩たちに語り始めたのです。
一つ背中を押したら、良い連鎖が起こった。櫻井先生の学校づくりは、まさにこの「背中を押す」ことの繰り返しです。
「雪山登り」── 改革を持続可能にする秘訣
これだけのスピードで学校を変えていくと、現場の反発もあるのでは?と聞いてみました。
櫻井先生の答えが秀逸でした。「雪山登りのイメージがある。一生懸命汗かいて登ると、後から冷えて凍傷になる。副作用がでかい。だからゆっくり、でも良いペースで、汗をかかない範囲で一歩一歩登っていくことが大事」。
実際、櫻井先生はトップダウンで決めていない。着任して最初の数ヶ月、先生方からたくさん話を聞いた。探究の担当から「社会とのつながりが薄いのが課題」と聞けば、その課題を解決できる人を外から連れてくる。文系の子向けの海外プログラムがないと聞けば、自分のネットワークから認定NPO法人CFFジャパンにつなぐ。先生方が感じている課題に対して手を打っていったから、「自分が一人でやったものではない」と言い切れる。
だから納得感がある。だから持続可能になる。
「2年後にやろう」では、今の子に届かない
櫻井先生の行動力の源泉を聞いた時、返ってきた答えはシンプルでした。
「いいものがあったら、7割8割でもいいから、今いる子たちに提供してあげなくちゃ。2年後にやろうと言ったら、今の1年生には届かない。そのうちやるって言ったら、やれないで終わる」。
完璧を目指して遅れるより、不完全でも今届ける。このスピード感は校長という立場だからこそ可能だと櫻井先生は言います。「校長には本当にたくさんの権限がある。やろうと思えばいくらでもやれる。楽しい仕事だと思う」。
「変化は副産物」── この言葉の深さ
インタビューの終盤、櫻井先生がぽつりとおっしゃった言葉が、一番心に残っています。
「あんまり変えようとは思っていない。変化って副産物だと思っていて、今ある目標に対して良いことがやれれば、そのままやればいい。でも必要なことをやっていくから、結果的に変わる」。
変革を目的にしない。目の前の子どもたちのために必要なことを、一つずつやる。その積み重ねが、結果として学校を変えていく。
そして櫻井先生は、自分の成果を誇らない。「この1年いろいろできたのは、前の校長先生を含めた先生方がやってきた土台があるから。ゼロからだったら、トラブルをもぐらたたきのようにやるだけでへとへとだったはず」。
「幸せに生きてほしい」── すべての根底にあるもの
櫻井先生の話を聞いていると、すべての取り組みの根底に一つの願いがあることに気づきます。
「いい大学に入ったけど、その先活躍できなかったり、幸せじゃないってことが起こる。活躍できることが全部いいかというと、幸せに生きてほしい。いろんなつながりや社会のことを知った上で出ていってくれると、幸せの確率がものすごく増える」。
学力の高い子ほど、実は精神的に苦しくなりやすいという現実もある。「草野球ならみんな楽しいだけだけど、プロを目指して本気で戦っている子たちは、挫折したり怪我をしたりする。勉強も同じ」。だからこそ、勉強以外の部分で子どもたちが育つ場を作ることに、櫻井先生は力を注いでいるのだと感じました。
これからの時代に必要な教育とは
対話の中で、日本の未来についても率直に語ってくださいました。
AIやテクノロジーが進化し、言われたことをきちんとやる力よりも、人間にしかできないことが求められる時代。でも学校はまだ十分に対応できていない。「理想的にできている学校はまだないんじゃないか。どこも試行錯誤」と桜井先生は正直におっしゃる。
ただ、こうも言います。「難しい時代だけど、面白いこともいっぱい起こる可能性がある。一人企業でAIを使って、ボカンと爆発するようなことができる。楽しみながら働ける時代でもある」。
その楽しさを、今の子どもたちに感じてほしい。だから地元を見せ、世界を見せ、挑戦の場を作る。櫻井先生の「場づくり」は、すべてそこにつながっています。
インタビューを終えて
帰り道、ずっと考えていました。櫻井先生のような校長がいる学校の生徒は幸せだな、と。
でもそれだけじゃない。櫻井先生の姿を見ていると、「校長って、こんなに面白い仕事なんだ」と思えてくる。校長のなり手不足が全国的に問題になっている今、この記事を読んだ教育関係者の方が「自分もやってみたい」と思ってくれたら、これ以上嬉しいことはありません。
現場を歩き、生徒と山に登り、外とのネットワークを広げ、子どもたちのために「今できること」を一つずつ積み上げていく。地味だけど、確実に学校を変えていくその姿は、教育の希望そのものだと感じました。
アーストラベル水戸 代表 尾崎精彦

