REPORT アーストラベルの旅

〜Society grade 5 スタート学習〜「農業探求プログラム」で僕らの未来を考える 茨城大学教育学部附属小学校5年生

教育旅行

5月より茨城大学教育学部 附属小学校5年生とのプロジェクトが始まりました。 このプロジェクトは、生徒が自主的に課題を見つけて、学び・考え・判断しながら、課題解決のための力を身につけることを目的とした「探究」の授業です。

同小学校では国が描く未来の形を動画にした「Society5.0(※)」との出会いから、自分たちで見たり聞いたりなど、調べられるものとして、身近である「農業」をピックアップ。農家さんを調べていけば、現在どのような取り組みが行われ、近未来の社会に何が足りないのかなど、生徒たちが探求できると考えたそうです。
 ※Society 5.0とは:狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において国が目指すべき未来社会の姿として提唱。
(リンク先 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/)

これから数十年後、大人になって生きる社会の変化に目を向けながら、「今必要なことは何か」「これから変わって行く社会の中で自分たちができることは何か」という課題を、農業を題材にして学んでいきます。

具体的には、茨城県内の農業体験学習で実態を学びながら、「情報を得る力」や「聞く力」、「伝える力」などを身につけ、さらに課題解決に向けて生徒自身が話し合い、自らが進む未来に向け提案ができるよう、取り組んでいきます。

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目次

  1. 1.農業探求プロジェクトキックオフ!
  2. 2.【農家体験学習レポート「ファームランドさいとう」様】
  3. 2-1.農薬を使わない「アイガモ農法」
  4. 2-2.ICTを活用した水田管理
  5. 2-3.土と触れあうジャガイモ堀り体験
  6. 2-4.子どもたちからの質問
  7. 2-5.体験学習での学びを終えて

1.農業探求プロジェクトキックオフ!

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5月に行われたプロジェクトのキックオフ授業では、弊社代表の尾崎より、茨城・日本・世界の農業について、楽しく理解ができるようにクイズ形式で説明ののち、今回協力いただく茨城町農業政策課の職員さんにも授業に参加いただきました。

「当たり前にスーパーに並び、簡単に手に入れることができる農産物の背景に何があるのか。町内の農家さんの見学やお手伝いなどの農業体験をしてもらうことにより、食べ物ができるまでの大変さ、農家の苦労やこだわりなどを学んで、農業に関心を持ってもらいたい」と生徒にお話いただきました。 

同町内の農家さんの協力を経て、まずは茨城の農家さんの置かれている状況や、それぞれの農家さんの熱い想いなどに触れることからはじめ、約半年をかけて学んでいきます。

2.【農家体験学習レポート「ファームランドさいとう」様】

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6月27日気温30度を超える中、茨城大学教育学部附属小学校5年生の生徒たちは、茨城町の農家体験学習へ。バスを降りて「ファームランドさいとう」に着いた生徒たちは、「今日は農家体験、1日よろしくお願いします」と元気に挨拶しました。

「ファームランドさいとう」は安心・安全な食品にこだわり、有機栽培米や大豆を栽培している農家さんです。まずはじめに、斉藤さんからお米ができるまでの工程や、1年間に 食べるお米の量などクイズ形式での質問が。答えを当てた生徒には星型のきゅうりをプレゼント。

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アイスブレイクを終え農場内の見学を開始し、トラクターやコンバインなど農機具の役割や設備の説明をしていると、「ガアガア」と鳴き声が聞こえ、生徒たちは声のする方が気になり出します。

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2-1.農薬を使わない「アイガモ農法」

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「ファームランドさいとう」では直売をメインで行っています。自分たちのつくったものがどんな人に届き、食べられるのか。「顔の見える農業を行い、なるべく口に入るまで責任をもちたい」という想いから、米づくりにおいて農薬を使わずに育てる「アイガモ農法」を取り入れています。

アイガモたちが水田を動き回って害虫を食べることで水が濁り、太陽の光が届かなくなるため、雑草などが生えずに根付かないということや、仕事を終えたアイガモたちは最後にはカモめしのお肉となることなどを説明する斉藤さん。

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「かわいいだけじゃなく、ちゃんと仕事をして重要な役割を果たしているんだね。最終的にはお肉になるんだね」と生徒。 

2-2.ICTを活用した水田管理

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昔は「お米は人の足音を聞いて育つ」と言われ、まめにお米の生育状況をチェックすることが大事だと教えられていたそうです。斉藤さんのところでは、たくさんある水田を実際に見に行くのは大変な作業になるので、水量や温度などがスマートフォン上で確認できるという「水田センサー」を利用して管理しています。デジタル技術を用いて農家さんの負担を軽減し、効率化を図った事例について説明いただきました。

生徒たちにとってはデジタル社会は当たり前なのかもしれません。昔ながらの農業と今の農業の違いをどのように感じるのでしょうか。また、生徒が大人になるころの社会では、どのような農業が営まれているのでしょうか。

2-3.土と触れあうジャガイモ堀り体験

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「今日はみんなでジャガイモ堀りをやりましょう」
「やったー!」

と喜ぶ生徒たち。 あまりの暑さに「本来ならばこの暑さでは農家は仕事をしません(笑)」と斉藤さん。暑さ対策でジャガイモ畑にテントを設置して日陰を作り、生徒たちの安全を確保しながら体験を開始。

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「ジャガイモは収穫する時期を教えてくれるの。上の部分が枯れたら収穫できるんだよ。引っ張って掘ってみてね」と斎藤さんが話すと、マルチを剥がして夢中になって掘り出します。

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「こんなにでっかいの出てきた!」
「赤いジャガイモ初めて見た!」
「手で掘るの楽しいね」

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「大きいジャガイモ農家さんは、人が乗って収穫する大きな機械を使ってじジャガイモを堀るんだよ。このあと、農協さんでジャガイモ倉庫を見学に行くのかな。高く積み上げられたたくさんのジャガイモを見るかもしれないね。機械を使ったり手で収穫したり、大量生産したり、少量多品種だったりなど、どちらがいい・悪いではなく、農業にはいろんな形があるんだよ」と斉藤さん。

2-4.子どもたちからの質問

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じゃがいもの収穫後には、斉藤さんの畑で育てた麦を使った「麦茶」が提供されました。

「おいしい!」
「香りがいい!」
「本物の麦って感じ」

生徒たちはそれぞれの感想を口にしながら笑顔で麦茶をいただき、質問コーナーの時間へ。 
今日の見学を振り返り、生徒たちはそれぞれノートを取り出し始めます。「質問がある人」と声をかけると手が上がりました。

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生徒質問:「アイガモはどこで購入しているんですか?

斉藤さん:「アイガモは千葉の専門の飼育業者さんから仕入れています。大きいカモだと稲を踏む量が増えてしまうので毎年1年生にきてもらっているんですよ。お肉にするときも、別の専門業者さんに持っていくんです」

生徒質問:「アイガモ農法はいつからやっていますか?」

斉藤さん:「うちの農業は100年くらい続いていて、私の代で4代目なのですが、アイガモ農法は父の代から始めました。1995~6年ぐらいからかな」

生徒質問:「アイガモを使うことで普通の米づくりと違うことはなんですか?」

斉藤さん:「農薬を使わなくて済むということです。安全で安心できるお米をお客さんに自信を持って届けることができます。第三者機関に毎年一回チェックをしてもらって、有機JAS認証(※)を取得しています。虫と草の管理をしなくてもよいかわりに、アイガモの管理をすることが必要なので、カラスやイタチ、キツネなどからアイガモを守るために、ネットを張るなどしています」

 ※有機JAS認証:JAS法に基づき「有機JAS」に適合した生産が行われていることを第三者機関が検査し、認証された事業者に「有機JASマーク」の使用を認める制度。 https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html

生徒質問:「他の地域や他の農家さんとのつながりはどんな感じなんですか?」

斉藤さん:「こうして農家をやっているとここで完結してしまうので、なかなかつながりが少ないんです。それで、他の市町村の農家さんや飲食店さんと一緒になってHAERUマーケット※というマルシェを開催して、直接お客さんに届ける場をつくっています。夏休みの最後の日曜日、8月28日に涸沼自然公園で開催するので、みんなも遊びに来てね」

 ※HAERUマーケット:斉藤さんをはじめとする茨城町の若手農家が企画。町の活性化 を図るとともに農業やものづくりの魅力を発信するマルシェ。 https://www.facebook.com/HAERU-マーケット-309507812880880/?_rdr

生徒質問:「お米は年にどれぐらいの量を作っているのですか?」

斉藤さん:「大体100トンぐらいになるかな。1人年間50kgだとすると、2000人ぐらいの食料をうちで賄うことができます。『医者が1日で救える命は数十人だけど、農業や水は1 日で1000人、2000人という多くの人を救える。だから農業は大事なんだ』という中村哲さんというお医者さんのお話があるんですが、私たち農家は、みんな自分の仕事に誇りを持って農業に取り組んでいます」

熱心にメモをとり、まだまだ聞き足りない様子の生徒たちでしたが、ここでバスのお迎えが来る時間になってしまいました。

2-5.体験学習での学びを終えて

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「今日は体験や質問をさせていただきありがとうございました」

生徒たちから声を揃えての挨拶があり、ファームランドさいとうでの農家体験は終了しました。

生徒たちの訪問を受け、斉藤さんは「みんな積極的で素直な子が多かったですね。質問も多くあり、農業に興味を持ってもらえて嬉しかったです」と感想を話してくれました。

生徒たちは茨城町の複数の農家さんを訪ねて、「機械を使った大規模農業」「農薬を使わない農法」「ICTの活用」「手作業での収穫」「人手不足」「直売」など、それぞれの農家さんの現状や課題を知ることができたのではないでしょうか。まだプロジェクトは始まったばかりですが、社会に目を向けさまざまなことを学び、考えていきます。

  

この日ご協力いただいたのは、茨城町の井坂安男さん、小幡畜産さん、倉本商店さん、塙真瑞さん、ひらさわファームさん、ファームランドさいとうさんの6名の農家さんです。生徒たちに素晴らしい体験と学びの機会をいただき、ありがとうございました!

記事、撮影 : 星川理恵子