REPORT アーストラベルの旅

創りたいのは”楽しい学校”に込めた思い~美乃浜学園 朝比奈校長先生インタビュー#7

先生インタビュー

「中学生の頃は、教員になれるなんて思いませんでした」とお話を始めてくださったのは、ひたちなか市立美乃浜学園の朝比奈泰浩校長先生です。小学校・中学校・高校、そして教育委員会での幅広い勤務経験をお持ちの朝比奈校長先生。現在は、令和3年に小学校3校(阿字ケ浦小学校、磯崎小学校、平磯小学校)中学校2校(阿字ケ浦中学校、平磯中学校)の5校が統合されたひたちなか市初の義務教育学校に勤務していらっしゃいます。

「学校はとにかく楽しく!」という言葉の背景にある思いや、目指す教育について、お話を伺いました。

勉強ができなかった中学時代があったからこそ、「楽しい学校」を創りたい

朝比奈校長先生が教員を志したのは高校生の頃。名門校で陸上がしたいと進学した水戸工業高校で、陸上部の顧問の先生に「陸上競技で全国大 会に出場すれば、体育大学に進学できる道もある」「成績が良くなれば大学に進学する道もある」と言われたのがきっかけでした。

「中学生の頃は部活ばかりでほとんど勉強せず、特に英語はまったくダメでした。高校受験の時に塾に通いたいと両親に伝えても『君は遊んでしまうだろうからお金の無駄遣いになる』と行かせてもらえないほど。そんな自分でも体育の教員になれるかもしれないと思い、大学受験のときには必死に勉強しました」

自身の経験から、目指していたのは「楽しく通える学校」を創ること。成績が悪い子の気持ちがわかる教員だって学校には必要だと感じてのことでした。成績が悪い子だってできないことに頑張って取り組み、楽しく過ごせる方法を考える教員だって学校には必要だと感じてのことでした。

学校から、地域すべてを活性化したい

現在勤務している美乃浜学園で目指すのは、「地域とともにあり続ける学校」だと朝比奈校長先生は話します。

「何かあったらすぐに駆けつけてくださる方がいる、地域の協力が大きな学校なんです。児童生徒の7割は電車通学なのですが、地域の方が電車内の見守りをしてくださり、派出所の方は非番でも横断歩道に立ってくれています。干し芋づくりを畑の提供から植え方や干しほし方まで教えてくださるなど授業でも協力いただいていますし、敷地の外周の草むしりを自主的にしてくださる方もいるんですよ。
そういった方に、子どもたちからもお礼の手紙を書いて届けたり、信号を渡してもらう時のあいさつなどで感謝やお礼の気持ちを伝えたりと、心温まる交流ができているように思います。」

児童生徒、先生方、地域の方、保護者の皆さんが一体となって子どもたちの成長に関わり、地域すべてが活性化していけばとの思いをお持ちです。

「起業家教育」で子どもたちに学びたい分野と出会ってほしい

校長先生の思いは、「今後は起業家教育にも取り組んでいきたい」という言葉からもうかがえます。昨年アーストラベルでお手伝いさせていただいた「働く人のお話を聞く会」をベースに、子どもたちに早いうちから起業家の方々の思いに触れ、自身の将来に活かしてほしい思いです。

「これまでもキャリア教育は行ってきましたが、今は高校生や大学生で会社を立ち上げる人もいる時代です。早くから取り組むことで意識付けし、子どもたちに『もっと学んでみたい』と思う分野を見つけてほしいと思っています。話を聞いたのをきっかけに、『外国とつながりたいから英語を学びたい』とか『商業のために数学や歴史を学ぼう』など、学ぶ意欲をもってもらえたらいいですよね」

その背景にあるのは、「人は必要に迫られれば勉強する」という自身の経験をもとにした考えです。

「私自身勉強は苦手でほとんどしませんでしたが、教員になりたいという目標ができたら大学入試と教員採用試験では必死に学びました。中学で勉強しなかったのでベースがないところからのスタートでしたから、人の3倍くらい努力したかもしれません。」

地域を活性化したい思いも強くお持ちなので、農業・水産業・企業などさまざまな仕事がある地域の特性を活かし、まずは地域の方で子どもたちに経験を伝えてくださる起業家の方を探していきたい思いです。

成長した教え子たちと関われるのは教員ならでは

そんな朝比奈校長先生が考える教員という職業の魅力は、卒業した児童生徒たちと交流をもてることだと言います。

「中3で担任し、私に反抗したまま卒業した生徒が成人式で『先生、あのときはすみませんでした』と挨拶に来てくれ、握手したことは忘れられません。ほかにも、部活動で一緒に関東大会や全国大会に行った卒業生たちと20歳をこえてから思い出話をしながら一緒にお酒を飲むするのもうれしいものです。中学校で担当した子が同じ職業に就き、市内で教員として勤務していることは最大の喜びかもしれません。」

先生方の仕事は大変なことも多いですが、卒業のときや成人式での「楽しかった」「ありがとうございました」などの言葉をもらえるのは、他では味わえない喜びだとにこやかに語ってくださいました。

先生たちに求めることは、子どもたちの思いや願いを達成する手助け

朝比奈校長先生は毎年4月、勤務校の先生たちには「ホテルマンであってください」と伝えているそうです。

「やはり、子どもたちには楽しく学校に通ってほしい思いをずっともち続けています。そのために先生方には、ホテルマンのようにできる限り『No』とは言わず、どうしたら実現できるかを考えてほしいのです。素晴らしい思い出のある学生生活を送れるよう、子どもたちの思いや願いを達成する手助けをしてほしいと願っています。」

これから教職を目指す方にしておいてほしいことを尋ねると、「接客業でのアルバイトや経験をしてほしい」「お客さんがいる商売をしてほしい」とこれも意外な回答をいただきました。

「教育以外も、いろいろな経験をして教員になってほしいと思っています。特に接客業では、相手を思いやった話し方や対応の仕方を学ぶことができるはずです。子どもたちはもちろん、教員は保護者の皆さんや地域の方といった様々な方と関わります。特に飲食店での勤務経験接客の経験は、教員として役立つスキルになりますよ。」

編集後記

とにかく「楽しい」と思える学校で、自分のやりたいことを見つけること。それを「もっと知りたい、もっと覚えたい」と思えたときに学習に向かうというお考えが、朝比奈校長先生のお話からは一貫して伺えました。
今後も「明日も来たい」と思える学校づくりを、先生方と一緒に進めていくとおっしゃいます。当たり前のようにも思えますが、児童生徒の皆さんが「楽しい」と思える状態をつくるのはかなり難しいこと。校長先生と、実現に向けて一緒に取り組まれている美乃浜学園教職員のみなさんに頭が下がる思いでした。

今年は学校統合から2年目。お子さんたち同士の関係もできてきたので、今後はさらに地域とのつながりを深めつつ学力向上にも力を入れたいと伺ったので、起業家教育などの面で今後もお力添えできたらうれしいです。

インタビュー・記事執筆/荒川ゆうこ
撮影:橋本理沙