REPORT アーストラベル水戸の旅

【教育現場インタビュー】水戸市立第三中学校・鎮目校長が語る「地域とともにある学校づくり」と“集団で学ぶ体験”の価値

先生インタビュー

教育現場ではいま、部活動の地域移行が進むなど、大きな変革期を迎えています。

茨城県でも、休日の部活動を地域クラブへ段階的に移行する取り組みが進み、令和7年度末には教員の休日指導ゼロを目指しています。

こうした流れの中、“地域とともにある学校づくり”をテーマに、新たな教育の形を模索しているのが、茨城県中学校体育連盟 会長であり、水戸市立第三中学校 校長を務める鎮目 英俊(しずめ ひでとし)氏です。

アーストラベル水戸代表の尾崎が、部活動改革の現状から、学校経営における地域との関わり、そして職場体験プログラム「シゴトリップ」実施の背景についてお話を伺いました。


茨城県で進む部活動の地域移行――変わりゆく制度、変わらない“人”の力

尾崎:最近、部活動の地域移行※という言葉を耳にする機会が増えました。ただ、実際にどんな取り組みが進められているのかは、まだ知らない方も多いと思います。現場の状況を教えてください。

鎮目校長:茨城県でも、市町村ごとに地域の実情に合わせた取り組みが進められています。地域クラブの立ち上げや指導者の確保などが進められており、令和7年度末までに、休日の部活動を教員が直接指導しない体制を整えることを目指しています。

とはいえ、地域ごとに環境や人材の状況が異なるため、現場では試行錯誤が続いています。制度は動き出しましたが、運営の形はまだ模索の段階です。

尾崎:やはり現場でも、まだ模索が続いているのですね。

鎮目校長:そうですね。部員数の減少や活動環境の課題を背景に、全国的に大会の在り方も見直されています。令和9年度からは、水泳やハンドボールなど複数の競技で全国大会の開催が見直される予定です。

尾崎:子どもたちにとっては、目標としてきた大会の形そのものが変わっていく、大きな変化ですね。

鎮目校長:そうですね。だからこそ、改革の中心に置くべきは「子どもたちが主語であること」です。どんな制度になっても、子どもたちは「一生懸命頑張っている姿を知ってほしい」「見てほしい」と願っています。

中学生という多感な時期に、努力を見届けてくれる大人の存在はとても大きい。地域に移行しても、先生が大会に足を運び、子どもたちを見守ることには大きな意味があります。

尾崎:水戸市では、直営型で地域移行を進めていると伺いました。

鎮目校長:はい。自治体ごとにさまざまな形がありますが、水戸市では、市が主体となって人材を育て、配置していく人材バンクのような仕組みを整えているようです。

まだ試行段階ではありますが、行政が直接学校や地域クラブのニーズをつなぎ、予算も確保しながら進めているのは、意義のあるチャレンジだと思います。

教育は制度によって支えられる部分もありますが、最終的に子どもたちを育てるのは“人”の力です。だからこそ、指導者をどう育て、どう支えるか。そこに教育の本質があると感じています。

※「部活動の地域移行」とは、これまで学校や教員が担ってきた部活動、特に休日の活動を、地域クラブや外部指導者へ段階的に移す取り組みです。教員の働き方改革を進めるとともに、生徒の多様なニーズに応えられる持続可能な活動環境を整備することを目的としています。


校長の個性が光る、地域に根差した学校経営

尾崎:続いて、水戸三中ならではの特色について教えてください。

鎮目校長:三中があるのは、下市(しもいち)という古くから商人のまちとして栄えた地域です。近くに商店街があり、人とのつながりがとても深い。地域行事も盛んで、代々受け継がれてきた水戸八景は、今でも地域で披露させていただく機会があります。

「私も中学生の頃に踊りました」と話してくださる保護者の方もいて、親子で同じ体験を語り合える温かい地域なんです。

▲「水戸八景」は、水戸藩9代藩主・徳川斉昭が作った漢詩に合わせて舞われるもので、1974年の茨城国体をきっかけに、当時の市立第二中学校教諭・渡辺房子さんが振り付けを指導。1978年に渡辺さんが三中へ赴任した際に伝えられ、それ以来、同校の伝統として受け継がれてきたそう。

尾崎:そうした地域のつながりが、学校の個性にもなっているのですね。

鎮目校長:まさにその通りです。県や市の方針はもちろん大切ですが、私はそれだけでなく、地域や子どもたちの実情に合わせた教育活動をつくることが、校長としての役割だと考えています。だからこそ、学校は地域のものだと常に意識しています。

尾崎:地域の特性を活かした学校経営、まさに“校長の個性が出る教育”ですね。

鎮目校長:今の時代、子どもたちを育てる学校には、地域や一人ひとりのニーズに寄り添った特色が求められています。

たとえば、生徒数900人を超える大規模校と、400人規模の学校では、学びの形も変わります。福祉施設が多い地域もあれば、商店街が中心の地域もある。それぞれの実情をどう捉え、学校経営に反映させるかが問われているんです。

これまでは、どの学校でも同じ学びができる「教育の均質性」が重視されてきました。もちろんそれは大切ですが、それだけでは子どもたちの多様な可能性を引き出すことはできません。

部活動ひとつをとっても、プロを目指す子もいれば、仲間との時間を大切にしたい子もいます。

私は、「この一年、この子たちに何を体験させたいか」という視点で教育を設計するようにしています。地域や学校ごとの個性を活かした教育こそが、子どもたちの自己肯定感を高め、地域全体の教育力を育てていくのだと思います。


「あなたはどう感じた?」と交わす言葉の中に、学びが生まれていく

尾崎:  このたびは、アーストラベル水戸の職場体験プログラム「シゴトリップ」をご活用いただき、ありがとうございました。今回は9月に、2年生が笠間市・城里町・石岡市・大洗町の4地域に分かれて体験を行いました。

栗の加工やスイーツづくり、農園での収穫体験、乗馬や動物の世話、キャンプ場の整備など、多様な現場での学びがありましたね。改めて、実際に取り入れてくださったきっかけや、実施してみて感じたことを教えてください。

鎮目校長:これまでの職場体験は、2〜3人ずつ別々の事業所に行く形式が一般的でした。今では「ラーケーション(学びの休暇)」といった仕組みもあり、少人数での体験や個別の学びは、そうした制度を活用することで実現できます。

だからこそ、学校として実施する職場体験では、仲間と学び合うことの価値を大切にしたいと感じていました。

シゴトリップは、生徒一人ひとりが自分の関心や興味に合わせて体験先を選び、同じ就業先のメンバーで学びを共有し合うという点で、新しい取り組みでした。同じ場所で同じ話を聞いても、一人ひとりの感じ方は違います。

だからこそ、「あなたはどう感じた?」「僕はこう思った」と言葉を交わす中で学びが深まっていく。互いの違いを認め合い、考えを尊重することこそが、これからの時代に求められる学びだと感じています。

尾崎: とても印象的なお話ですね。まさに、共同体験が生み出す教育の力そのものだと感じました。体験を共有し、互いの感じ方を語り合うことが、学びをより深くしていくのだと思います。

鎮目校長: そうですね。職場体験の目的は、特定の職業を目指すことではなく、自分の生き方を考えること。キャリア教育の一環として、中学2年生という多感な時期に「自分はどう生きたいのか」を考えるきっかけをつくることが大切です。

同じ体験を共有することで、子どもたちは互いの考えの違いを知り、視野を広げていきます。それはまさに、“体験を通じて生きる力を育む”教育だと思います。

尾崎:先生の教育に向き合う姿勢や、新しい挑戦を恐れずに実践されている姿に、心から感銘を受けました。

鎮目校長: ありがとうございます。私はいつも、「仲間がいるから頑張れる」と考えています。今回のシゴトリップを通じて、アーストラベル水戸という新しい仲間と出会えたことをうれしく思います。これからも、子どもたちの未来をつくるために、ともに歩んでいけたらと思っています。

尾崎:嬉しいお言葉をありがとうございます。私たちも、先生方と一緒に、子どもたちの学びと成長をデザインしていけるよう取り組んでまいります。本日は貴重なお話をありがとうございました。


インタビュー後記:教育を動かすのは、“現場のまなざし”

鎮目校長先生のお話を通じて感じたのは、“人を育てる”という教育の原点でした。制度や仕組みを整えることも大切ですが、その根底には、子どもたちと真剣に向き合う先生方のまなざしがあります。

一人ひとりの成長を信じ、支えるその姿こそが、教育の現場を動かしているのだと思います。

校長先生が語られた「集団での体験が持つ教育力」にも、その想いが込められていました。体験を通じて気づき、語り合い、互いの違いを受け入れる。その積み重ねが、子どもたちがこれからの社会を生きていくための“学びの力”を育んでいくのだと改めて感じました。

私たちアーストラベル水戸は、こうした先生方の想いに寄り添いながら、地域と子どもをつなぐ「学びのデザイン」を続けていきます。そして、その一歩一歩の体験が、子どもたちの“生きる力”を育むと信じています。


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