鎌倉学園 7月探究フィールドワーク2日目
2022年7月14日と15日の2日間、鎌倉学園高等学校の1年生のうち17名が茨城県にやってきました。学校で設定されたテーマの中から各自関心のあるものを選び、1年かけて探求学習に取り組んでいる彼ら。今回は、茨城県のPRをテーマに選んだ生徒さんたちが、学校として2回設定している学習旅行の1回目。アーストラベル水戸がサポートさせていただき、全員共通のプログラムで茨城県の魅力を見つけるべく、つくば市と石岡市を訪れました。
今回は、教育旅行2日目の石岡市での体験学習の様子をお伝えします。
1. いばらきフラワーパークで講話&体験
つくばのホテルを出発し、向かったのはいばらきフラワーパークです。開園は1985年ですが、2021年4月にリニューアルしたばかり。「見る」から「感じる」フラワーパークへというコンセプトのもと、“五感”が刺激されるひとときを過ごせる場所へと変化しました。
こちらでお話をしてくださったのが、職員の藤野龍一さん。アメリカで大学生活を送っていた頃、環境保全は人と自然の距離が近い方が取り組みやすいこと。そして、日本は昔から、生活と自然との距離が近かったことに気付いたそうです。
SDGsが世界中で進められる中、21世紀に必要なのは自然と共生していく知恵だと考え、日本の里山体験を広める活動をしています。普段はマーケティングマネージャー・宿泊施設のアドバイザー等の仕事もしながら野遊びコンテンツの開発・提供をしているという藤野さんからの学びは多数ありました。
前半は、里山や森林活用について講義形式でお話がありました。森林伐採の問題が叫ばれて久しいですが、日本に限っていえば森林面積はここ数年ほぼ変化がなく、木はそれぞれ成長しつづけているためむしろ緑は増えているとのこと。この事実には、高校生たちも驚いた様子でした。
問題になっているのは、増え続けている森や木を活用できていないこと。森林は、手入れをしなければ人も動物も立ち入りにくくなり、新しい木も育ちにくい暗い森になり、結果生物多様性が損なわれてしまうそう。その解決策として、木材を活用する他、エコツアーや野遊び・キャンプ等で森に入り空間として活用することが有効だというお話でした。
森の空間活用を体験する取り組みとして、後半は野遊びのひとつである火起こしを楽しみました。メタルマッチという火起こし道具を使って、森にある資源のうちどんなものに、どんな工夫をすると火が起こせるのか試していきます。
始めはメタルマッチで火花を散らし、コットンを燃焼させます。持ち方や、摩擦する際のコツを教えていただきながら、道具に慣れていきます。
その後、燃えやすい麻の紐で炎を起こし、できた人から園内で採取した森の材料での挑戦へと進みます。火が燃えるためには、酸素・燃料・温度の3つが必要ですが、小さな火にちょうど良い量の呼気を送りながら酸素と温度のバランスを取るのはなかなか難しい様子。すぐには火がつかなくても、全員が試行錯誤しながら何とか火をつけようと取り組んでいました。
森の材料で火をつけるステージに進んだ生徒さんたちも、材料の形状や火を置く面を変えてみたり、用意された材料を組み合せて使ってみたりと、各自が探究する姿勢と集中力が素晴らしかったです。あいにくの雨のため屋内での活動となったのですが、部屋の中が皆さんの燃やした材料から出た煙で白くくもり、長めに確保されていた時間もあっという間に過ぎていきました。
2. 八郷留学で体験活動
昼食後、石岡市内をさらに北の方に移動し、向かった場所は八郷留学。里山・八郷盆地で小学生が宿泊しながら自然体験をするプログラムです。お話をしてくださったのは代表で八郷生まれ、八郷育ちの原部直輝さん。
八郷を離れて大学生活・イタリア留学・サラリーマン経験を送り、八郷に戻って気付いたことは「自然の良さは、ルールがないこと」だと言います。
自分の暮らしを、自分の思う方向にもっていける良さ。
一見不便だと思えることも、工夫次第で楽しめるから不便だとは感じていないこと。
都会なら当たり前にあるものを、1から作れる楽しみ。
八郷留学の活動の他、フラワーパークで業務や草刈り、HP制作等の仕事を掛け持ちして生計を立てているそうですが、今の数倍お給料をもらっていたサラリーマン時代よりずっと幸せだと原部さんは語りかけます。八郷という土地の魅力と、やりたいことをやって生きる心の豊かさを教えていただきました。
座学のあとは、体を動かして身をもって学ぶ活動です。原部さんの他、中島さん・東海林さん・瀧田さんも活動のサポートに来てくださり、五右衛門風呂の竈門作りと、茅葺屋根に使う茅の下拵えに取り組みました。
五右衛門風呂チームの作業は、次回八郷留学に訪れる小学生が八郷留学に来る際に入浴する五右衛門風呂の土台づくりです。丸みを帯びた風呂釜を安定して設置するために、タガネや研磨する機械を使って大谷石を整形していきます。
風呂釜を乗せてみてどこを削るべきか決め、トントン削る。再び乗せてみて、再調整の連続です。「なるべく炎がもれないよう、隙間がない方がいい」などの条件もある中でしたが、意見を出し合い、メンバーチェンジしながら作業を進める様子がありました。決まった正解はない作業は、最後がどんな風に仕上がるかが分からないところが面白さですね。
茅葺屋根チームは、茅葺職人のタキタさんに屋根の構造や材料について教えていただくところからスタートです。
鎌倉学園近くの報国寺にも茅葺屋根の鐘つき堂があるとのことですが、八郷には数十軒の民家に今も茅葺屋根が残っています。背丈以上もあるススキを刈ってきて乾燥させたものが、今回の茅づくりの材料です。
向きを変えながら束をつくる。
葉などの余計な部分は手で折り、ちぎって取り除く。
束ができたら稲わらで固く結び、半分にカットする。
言葉で言うのは簡単ですが、外の限られたスペースで思い通りに操れない長いススキを束ねていく作業はかなりの重労働。かなり苦戦している様子でした。一軒の家の茅を交換するにはこの日つくった束が12,000束程必要だそうですが、この日17人でつくれたのは数十束。時間と労力が必要な作業であることが分かります。途中、飼われている子ヤギに餌やりをするなどして癒されながらの活動となりました。
茨城の「科学」と「自然」を体験した2日間
2日間という限られた時間の中ではありましたが、生徒の皆さんには茨城の科学も自然も、ぎゅっと体験してもらうことができました。地域のために熱量高く取り組んでいる方々から直接お話を伺い、自ら動いて学んだ2日間。彼らの心に残ったのはどんなことだったのかが気になります。
今回の体験を元に、これから学校に戻って各自が関心のある分野で探求学習を進め、冬には各自の計画にそって再び茨城を訪れてくれる予定となっています。17人の生徒さんが茨城のどんなところを魅力に感じ、どんなPRをしてくれるのかを楽しみに、この先の活動もサポートしていきます。