大事なのは、先生同士の助け合い。密なコミュニケーションでより良い教育現場を目指して|ひたちなか市立那珂湊第二小学校・鎮目真実校長先生
「30年以上教育現場に携わってきましたが、一度も一人で仕事をしたという感覚はありません」と話すのは、ひたちなか市立那珂湊第二小学校の鎮目真実校長先生(以下、鎮目先生)。
高校時代の出来事をきっかけに教員を目指し、校長先生となった今も子どもたちに寄り添い続ける鎮目先生は、現場に立つ先生方とのコミュニケーションを大切にされています。そんな鎮目先生に、先生という仕事の魅力や生徒への思い、教育の未来についてなどさまざまなお話を伺いました。
隣にいる安心感と温かさを感じる先生に
――はじめに、先生を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
先生を目指そうと思ったのは、高校3年生のときに長年続けていた陸上競技でインターハイに出場できなかったことがきっかけです。
大学進学後も、陸上競技を続けようと体育大学に進学するつもりでいました。ですが、インターハイに出場できず、将来陸上選手として生きていくのは難しいのではないかと感じるようになったんです。
昔から勉強よりも体を動かすのが好きだったこともあり、どんな形であれ陸上を含め運動を続けられる方法を模索していました。
そんなときに選択肢の一つとして生まれたのが体育の先生でした。陸上選手として飛躍することはできませんでしたが、生まれ育った地元・茨城に、自分の好きなことやできることを通じて貢献していきたいという思いが募り、先生を目指すことにしました。
――陸上選手ではなく先生になると決めた中で、理想や目標とする教員像などはありましたか。
目標としていたのは、小学校1・2年生のときの担任の先生です。いつも子どもたちの近くにいてくれる温かい方でした。
その一方で、たとえ生徒が泣いても決してやさしくはしない先生だったんです。ですが、そばにいると、不思議と安心感があり「私もあんな先生になりたい」と教員を目指しました。
教育現場に立って30年以上経ちますが、今でも変わらず理想とする先生ですね。
ほんの少しのアドバイスで、生徒の苦手意識は変えられる
――30年経った今でも理想像が変わらないのはとても素敵なことだと思います。長年先生を続けられている中で、うれしかったできごとはありますか。
部活動も含めて生徒が努力した分だけきちんと結果につながったときが一番うれしいです。スポーツの話で言うと、関東大会や全国大会に出場が決定したときです。
あとは、自分が担任をした教え子たちが成長し大学生や大人になったとき、夢を叶えたという話を耳にすると、素直に幸せな気持ちになります。
――結果につながるというのは、嬉しいことですよね。鎮目先生なりの生徒への指導の仕方で心掛けていることはありますか。
あくまでも私の持論ですが、体育という教科は座学と比べて分からなくても、ある程度感覚やセンスで対応できると思います。
それでももちろん体育が苦手な子はたくさんいて、自分では気付かないうちに、どこか限界を作ってしまっているんです。苦手意識を持つ生徒に対しては、全てを教えるのではなく、ほんの少しだけ声掛けやアドバイスをして、背中を押すように心掛けています。そうすると生徒自身の中でそのアドバイスを吸収し、苦手なこともできるようになりますね。
小学生への丁寧な指導が、その先の学びにつながっていく
――生徒へのそのようなアドバイスも含めて、鎮目先生が生徒と関わる上で大切にしていることはありますか。
同じ場所に小学生、中学生、高校生の3人が一緒にいたとしたら、小学生に分かる言葉で伝えるよう意識しています。
小学生への指導を大事にすることが、その先の中学校と高校に通じるものがあるからです。
――それは鎮目先生のご経験からでしょうか。
そうですね。以前、中学3年生の担任をした翌年に、初めて小学校に赴任し、小学3年生の担任になったことがありました。
その当時は中学校での現場経験しかなかったので、同じ教育の現場でも全く異なり、その大変さを身に染みて感じました。
ですが、両方経験したからこその気付きもありました。
例えば算数は、小学3年生で学んだことが中学の数学へとつながっていきます。逆に中学校で数学が苦手な生徒は、小学3年生でつまづいていることが分かりました。
本校にいる先生は、小学校の現場経験しかない方も多いので、その気付きを先生方に共有し、取り返しのつかないことにならないためにも、生徒に丁寧な指導をするように伝えています。
それから、小学校と中学校の現場の違いとして、中学校では教科ごとに担当の先生がいるだけでなく、時間割りを作る先生もいます。しかし小学校では、基本担任の先生が全て担当します。小学校のリズムに慣れるまでとても大変でしたが、今思えばその経験があったからこそ、他の教育現場にも生かすことができたのだと思います。
私の経験上、できれば先生方にはぜひ両方の現場を経験してもらいたいと思っています。
――小学校と中学校の両方を経験した鎮目先生ならではのご意見ですね。鎮目先生から見て、那珂湊第二小学校はどんな先生方が多いですか。
本校には、子どもたちのために一生懸命な先生方がたくさんいます。誰もが自分の信念を持って生徒たちと向き合ってくれているので、本当にありがたいと思っています。
私も校長室にいるばかりではなく、教室に様子を見に行き、現場を肌で感じて、なるべく先生方とコミュニケーションをとるように心掛けています。
一人ではなく、チームで行う先生という仕事
――ありがとうございます。鎮目先生のお人柄や那珂湊第二小学校の雰囲気が伝わってきました。改めて鎮目先生が思うこの仕事の魅力は何でしょうか。
30年以上教育現場に関わってきましたが、どんな仕事も一人でやってきたという感覚は全くなく、この仕事が嫌だと思ったこともありません。
そう感じるようになった一番のきっかけは、先生になって2年目のときです。仕事が終わらず苦しんでいた私を、先輩教員が学校に残って一緒に終わるまで手伝ってくれました。
先輩がいたからこそ、どんな仕事でも乗り越えることができたのだと思います。一人ではなく、助け合いながらできるのが、先生という仕事ではないでしょうか。
体育の授業のことに限って言えば、座学とは違った生徒の表情が見られることが魅力です。疲れていても、生徒から元気をもらえるので、それがまた原動力になります。私の場合、周りにも恵まれて、子どもたちの義務教育入口から出口まで関わることができました。
先生はそんな子どもの成長をそばで見られる、やりがいのある仕事だと思います。
――鎮目先生からは、先生という仕事への思いの深さや生徒への愛情、チームで仕事をする大切さを感じられました。
これまで私が周りにたくさん助けられてきたからこそ、現場に立つ先生には一人で仕事を抱えるのではなく、お互いに支え合いながら、生徒と向き合ってほしいと思っています。
また、先生は生徒と真剣に向き合っているがゆえに悩むことも多いです。私はある程度時間も許すことから、校長室に座っているだけでなく、出来る限り先生方のそばに行くように心掛けています。
「生きた言葉」を大切にしながら、生徒に寄り添える先生になってほしい
――鎮目先生のような校長先生がいると、現場に立つ先生方も安心だと思います。これから先生を目指す方に向けてメッセージをいただけるとうれしいです。
先生は子どもの人間形成に携わる大事な仕事です。誰もが「こんな先生になりたい」という理想像を描きながら、この仕事を選択していると思います。
有名な先生や立派な先生にならなくてもいいので、いつも生徒の近くにいて生徒のことを一番に考えられる温かい先生になってもらいたいです。
また、現代の子どもは、スマートフォンやタブレットの使用が多く、言葉を発する機会が減っているのではないでしょうか。私は「生きた言葉」を大切にしてほしいと思っており、先生にも生徒にもしっかり思っていることを直接話そうと常日頃伝えています。
便利なものであふれかえっている世の中だからこそ、人と人とのコミュニケーションが最も大切だと思います。
――素晴らしいメッセージをありがとうございます。最後になりますが、鎮目先生から見て、これからの教育現場に必要だと感じていることがあれば教えてください。
これからの教育現場にはもっと探究学習が必要だと思います。高校では、学習指導要領の中に探究学習が入っていることから、自分で決めた課題をとことん調べて研究する中で将来のキャリアが形成されていきます。
また、中学校でも職場体験がカリキュラムに組み込まれているので、キャリアの第一歩を考える機会にも恵まれます。
その一方で小学校は、社会科見学やまち歩きといった見学が多いのが特徴です。私としては、キャリア形成の授業を小学校で始めても良いと感じています。ただ難しい話だと、小学生は飽きてしまうので、外部の力もお借りして工夫しながら、探究学習を進めていけたらいいですね。
――鎮目先生、お忙しいところ貴重なお話をありがとうございました!
取材・文 谷部文香