関東学院中学校高等学校 / つくば探究宿泊学習
神奈川・横浜で学ぶ、関東学院中学校高等学校の中学2年生。これまでの修学旅行は、京都・奈良の名所を巡る、いわゆる「点」の観光でした。そんな生徒たちに「学びの先に何があるのかを実感してほしい」という思いから、アーストラベル水戸が企画・運営しているのが、茨城県つくば市を舞台にした「つくば探究の旅」です。農業や福祉の現場、研究機関、スタートアップが集まるつくばなら、現場の課題から研究、社会実装までを一つの地域で辿れます。
単発の修学旅行では終わらせず、事前学習・現地プログラム・事後学習を組み合わせた年間プログラムとして設計しています。今回は、その中心となる「つくば探究旅」の中から、最先端の起業家精神と社会課題の解決を肌で学んだ「アントレプレナーシップコース」の様子をレポートします。
実施概要
- 学校名:関東学院中学校高等学校
- 対象学年:中学2年生 約250名(6クラス)
- コース:アントレプレナーシップコース|全3コース中の1つ(アントレプレナーシップ/宇宙/第一次産業)
- 実施日:2026年3月18日(水)・19日(木)※インフルエンザ流行により11月から延期して実施
- 行き先:茨城県つくば市(株式会社Griteen・FabSense株式会社・筑波技術大学 ほか)
- 旅行形態:完全オーダーメイドの探究宿泊学習
- 年間プログラム:
- ① 事前学習(7〜10月)|アプリで課題解決プロセスを体験
- ② つくば探究旅|「現場・研究・実装」を辿る2日間 ➔ ★本記事
- ③ 事後学習(2026年度〜)|探究×事業プラン立案カードゲーム
【1日目・午前】つくば到着、TCI池田さんによる全コース共通キックオフ

横浜にある学校をバスで出発した中学2年生の生徒たち。バスに揺られること2時間半、つくば市内のホテルグランド東雲へ到着しました。

最初のプログラムは、TCI(株式会社つくば研究支援センター)池田衣澄さんによるキックオフ講話です。「日常から課題をどう見つけ出すのか」「見つけた問いを、どう深め、検証していくのか」といった視点が共有されました。この講話を経て、生徒たちは各専門コースへと出発しました。
【スタートアップ訪問①】課題解決型の起業。株式会社Griteenで出会った憧れのロールモデル

本コースの大きな特徴は、株式会社つくば研究支援センター(TCI)池田さん監修のもと、起業へのアプローチが全く異なる2つの若手スタートアップを巡り、それぞれの視点からイノベーションの裏側に触れた点です。
1社目に訪問したのは、女の子向けのプログラミング教室を展開する株式会社Griteen(グリティーン)さんです。代表の多田遥香さんは、筑波大学の工学系学類を卒業後、現在は同大学院博士後期課程に在籍しながら会社を経営する学生起業家です。
多田さんからは、「なぜ自分が若い年齢で起業の道を選んだのか」というリアルなキャリア講話を伺いました。「日本の理系教育において、女の子向けの機会がまだ十分に浸透していない」という実社会の課題を自ら見つけ、それを解決するためにビジネスを立ち上げたというストーリーは、生徒たちに強い衝撃を与えました。

講話の後は、実際にパソコンを使ってアクリルスタンドを自分の好きな色に光らせるプログラミングワークショップに挑戦。この体験は、特に女子生徒たちの心に深く刺さったようです。年齢が近い多田さんの「自分で自分の道を切り開いていくかっこいい姿」を目の当たりにし、「私もこんなお姉さんになってみたい!」と、人生のロールモデルを見出す生徒たちの生き生きとした視線が印象的でした。

【スタートアップ訪問②】技術先行型の起業。FabSense株式会社で没頭した触覚センサー実験
続いて2社目に訪問したのは、同じく筑波大学出身の若手起業家である皆川達也さんが立ち上げたFabSense(ファブセンス)株式会社さんです。

先ほどのGriteenさんが「社会課題の解決」からスタートした起業だったのに対し、FabSenseさんは「大学時代に研究してきた接触(触覚)の優れた技術を、どう世の中に役立てて実装するか」という、真逆の技術先行型(シーズ志向)のアプローチです。起業の背景が全く異なる2社を続けて比べることで、生徒たちは「イノベーションが生まれるルートの多様さ」を新鮮な驚きとともに実感していました。
ワークショップでは、触覚センサを体感するための実験器具づくりに挑戦しました。最初は細かく複雑な組み立て作業を前に「難しそうだな……」と戸惑う声もありましたが、いざ始まると生徒たちは時間の経過を忘れるほどのめり込んでいきます。

現場で起きた試行錯誤のプロセス
自分で作り上げた装置を身の回りの様々な場所に当てると、素材の感覚に反応して音が鳴る仕組みです。「あ、ここだと違う音がする!」「反応した!」と歓声が上がる一方で、最初はうまく音が鳴らない生徒もいました。しかし生徒たちはそこで諦めず、「なぜ鳴らないんだろう?」と自分から研究者に理由を問いかけ、配線やパーツを修正。自分の手と頭を動かして問題を解決する「研究者の思考プロセス」を楽しそうに体得していました。
代表の皆川さんも非常に若い世代であるため、中学生の生徒たちにとって共感しやすく、対話のハードルが自然と低くなる素晴らしい時間となりました。
【大学訪問】社会実装の現場へ。筑波技術大学で日常の”アタリマエ”を疑う視点を得る
旅の後半に訪れたのは、視覚障害や聴覚障害を持つ方を対象とした国内唯一の国立大学法人、筑波技術大学の春日キャンパス(視覚障害系)です。
生徒たちはまず、学内の徹底されたバリアフリー設計に目を奪われました。すべての案内表記が大きく見やすく作られているだけでなく、エレベーターや階段から繋がる動線が綺麗な「ロの字型」になっており、視覚に障害があっても1周すれば迷わず目的地へ辿り着けるなど、視覚障害者が学びやすい工夫のなされた環境を体感しました。
講義では、「視覚障害=全く何も見えない状態」という固定観念を覆す「ロービジョン(弱視)」などのさまざまな視覚障害について学び、障害の本質についての基礎知識を学びました。
キャンパス案内では、学生さんたちの協力のもと、図書館で本を読むための特殊なサポート器具を見学。さらに、画面が見えなくても音やコントローラーの振動だけで感覚を掴み、健常者以上に圧倒的な強さを誇る格闘ゲームのプレイ現場や、目にも留まらぬ超高速の音声読み上げ機能を使ってパソコンの情報を瞬時に処理する学生たちの様子に、生徒たちは「こんな世界があるなんてすごい……」と驚嘆の声を漏らしていました。

最後は、実際に自分の手で点字を打って文章を作るワークショップを体験。同行したアーストラベル水戸のスタッフは、生徒たちの意識の変化をこう語ります。

生徒たちは最初こそ緊張していましたが、体験を通じて「普段何気なく使っているシャンプーとリンスのボトルのギザギザ(識別用の凹凸)」や「ビールの缶の上にある点字」など、身の回りにはすでに多くの配慮や社会実装のデザインが溶け込んでいることに気づき始めました。「これまで全然意識していなかったけれど、あんな風に工夫されていたんだ!」という驚きが、彼らの視野を広げ、日常を見る目に新しいアンテナが立つ瞬間を見ることができました。
――同席したスタッフより
すべての行程を終えた生徒たちは、バスで横浜の学校へと帰着。1泊2日の充実した探究旅を締めくくりました。
編集後記|担当スタッフより
このアントレコースは、現役の大学生や20代前半といった、中学生にとって非常に年齢の近い先輩たちが講師として次々に登場しました。だからこそ、生徒たちも構えることなく素直にコミュニケーションを取ることができ、話が大いに弾んで、最後には「楽しすぎて、もうここから帰りたくない!」という本音の感想が漏れるほどでした。
元々のこのツアーの設計には、生徒たちに「勉強する意味を見つけてほしい」という、いわば”学びのやる気スイッチ”を押す位置づけとしての狙いがありました。自分の一歩先を行くかっこいい大人の生き様や、最先端の研究が社会の役に立っている現場を見たことで、「学びの先に何があるのか」を最も強烈に実感できたコースになったと確信しています。実際、旅行から戻った後、「あの大学を目指したいから、今のうちからもっと勉強を頑張ってみる!」と、自ら目標を設定して努力を始めた生徒さんも出ていると伺い、非常に強い手応えを感じています。
今回は時間の制約上、生徒たちがせっかく良い問いを見つけても、起業家や学生さんたちとじっくり語り合うところまではたどり着けませんでした。そこで来年度(2026年度)は、思い切って時間枠を広げてみます。最先端の現場で活躍する若きプロフェッショナルたちと、生徒一人ひとりが膝を突き合わせて、「働くこと」「研究すること」「社会を変えること」について、もっと深く語り合える時間をつくっていく予定です。まだまだ発展途上のコースですが、来年はどんな気づきが生まれるか、私も楽しみにしています。
起業家という肩書きにまだ距離を感じている子も多いはず。来年度、じっくり対話する時間を経て、生徒たちがどんな「次の矢印」を見つけるのか、続報をお楽しみに。
担当:橋本

